コラム
2024年09月14日 サービス
行政書士法違反となる書類作成とは: 登録支援機関等と行政書士の違い
Q. 登録支援機関は特定技能の書類と手続をよく代行しますと言われますが、これは行政書士法に違反すると聞いたことがあります。
委託した側も法令違反になるのでしょうか。企業としては、登録支援機関に任せる価値が、支援サービスの中で行政手続と理解しております。
A. 行政書士法違反となるのは、行政書士または弁護士でない者が行う申請や届出などの「手続書類作成」です。しかし、特定技能について登録支援機関など(技能実習では監理団体)が行う「取次」とはどう違うのでしょうか。以下の通り詳細を法律根拠とともに説明してまいります。
登録支援機関や監理団体の役割
登録支援機関が行う支援業務は「生活支援」です。オリエンテーションの実施、または住宅や転職の支援も含めて生活支援の範疇であり、空港への送迎もその一環です。市役所等への同行についても同行であって、行政手続の書類作成や代理ではありません。
この点、監理団体も同様です。人材紹介、監理(監査)、指導をすることが仕事であり、書類を作成する「申請者」は企業や外国人です。
したがって、書類作成の代理代行はできず、「入管への提出について、取り次ぐこと」のみです。法令や行政手続の専門家ではありません。
以上から、登録支援機関が行うべき「支援」の委託には、行政への書類手続が含まれておりません。それは生活支援の範囲であり、あくまで「プラスで取次」もできる制度となっております。
行政書士の役割
一方で行政書士は行政手続の専門家です。
その独占業務は「官公署への書類作成その他権利義務」に関する書類作成です。
さらに手続の代理代行はもちろん可能で、さらに近年では、弁護士業務である行政処分対応なども、特定行政書士が可能な法改正がされております(行政不服審査における処分取り消しの審査請求等の代理人業務)。
谷島行政書士法人でも特定行政書士を有しているため、受入停止や登録の取り消し、その他行政処分への対応が可能です。
また、手続の広さとしても、「建設業許可」などあらゆる許認可が独占業務となります。
もちろん在留資格においても、「特定技能」や「技能実習」以外でもその他の「技術・人文知識・国際業務」、「企業内転勤」、「経営・管理」、「家族滞在」、「永住者」など全ての在留資格や手続がおよそ可能です。
企業や団体は、下記入管の注意書きのように行政書士法と弁護士法において、行政書士・弁護士以外が行う書類作成が違反とされるからです。この申請に必須な資料で目立つ赤文字であるため、申請書類を作った後に違反と言われ、「行政書士法を知らなかった」と主張できる登録支援機関や監理団体は通常考えられないことになります。
出典元:法務省出入国在留管理局、在留申請の書類一覧の留意事項一部
書類作成報酬でなく支援費や監理費を受け取って書類作成をしている事業者は適法か?
それでは、書類作成は「無料で報酬を得ていない」という話をしている支援費表や監理費表を提示している機関はどうなるのでしょうか。
この点、仮に書類作成で報酬を得ていないと言っても違反となってしまう同様の結論です。「書類作成をして別費用(支援費)として「報酬」を得ている」とみなされることについて行政の解釈がされております。
つまり、別名目で受け取っていても違法性に変わりはないということです。
行政書士法の独占業務の範囲とは
整理すると以下の類型となります。
(行政書士法第1条の2) 独占業務: 1. 官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電磁的記録つまりデータ入力されるものを含みます。)その他権利義務に関する書類 2. 事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)
|
「官公署に提出する書類」とされているので、ほとんどすべての省庁や都道府県、市区町村などとなります。
さらに、一番広いカテゴリーとなる「権利義務」に関する書類とは、外国人技能実習機構などの特殊法人も含むと解されます。
それに、「事実証明」を含めると、ほとんどの公的・社会的に効力を生じさせる、つまり手続上の書類はほとんど網羅されることになります。
上記から、出入国在留管理局や、国土交通省、あるいは各分野協議会などの省庁への書類は、すべて行政書士法上の「官公署への提出書類」となり、(税務や登記、社会保険などを除き)行政書士と弁護士のみが可能という法律になっております。
行政書士法違反の罰則とは
行政書士法違反は、刑罰として懲役(拘禁刑)又は100万円以下の罰金となっております。
行政書士法(抄)
第二十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。 略 二 第十九条第一項の規定に違反した者
|
ちなみに、それに加担したその他の関係者にも幇助犯などの共犯が成立しうるところです。これは人材会社の他、行政書士であっても同様です。行政書士が申請書などを全く作成せずに作成者として名義貸しをした場合、その登録支援機関とともに、行政書士が取り消しなどの行政処分を受け、さらに逮捕され懲役になることもあるということです。
参考:
行政書士法(抄)
(業務) 第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。 2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
第一条の三 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。 一 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第三号に規定する許認可等及び当該書類の受理をいう。次号において同じ。)に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為(弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第七十二条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く。)について代理すること。 二 前条の規定により行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。 三 前条の規定により行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。 四前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。 2 前項第二号に掲げる業務は、当該業務について日本行政書士会連合会がその会則で定めるところにより実施する研修の課程を修了した行政書士(以下「特定行政書士」という。)に限り、行うことができる。 |
行政書士法に違反する書類作成と、虚偽申請の関係
行政書士法であろうと入管法であろうと法令違反を容易に行う企業は、罰則がある罪を恐れません。
なぜなら、士業と異なり通常の企業には倫理の遵守は義務ではありません。さらに、失うものも少ないとされます。資格がなければ、その取り消しは問題になりません。そのうえ、会社設立は簡単にできる時代であり、何の資格もない担当個人が逮捕されても、会社は代替要員を確保することで、また別の法人をつくることはできます。
したがって、行政への申請や報告の書類で虚偽があっても、それで簡単に許可を通すことができるなら、それを行う傾向にあります。その虚偽は、登録支援機関などの企業が責任を負うことがあっても、企業がその通りに実行した場合は企業も違反となります。
例:入管法の基準に不適合となる雇用契約を申請書類と別に締結するなど
しかし、事実上、所属機関つまり企業はそのようなことを知らないときは、登録支援機関等が作成する書類などによって手続きを会社の作成者名義で行わせられることになります。登録支援機関は行政書士でないと書類作成をすることができません。その法令違反を隠す場合、すべて会社の担当者や外国人の名義で書類を作成する建前となります。
その場合も、入管法において、在留資格の不正取得とされるような虚偽申請や不法就労助長、その他多くの類型で罰則が用意されております。
会社が実態と書類の違いがあって、それが重要な要件に係る事実の場合、それは不正な申請や虚偽とされることになります。もし、虚偽申請があったとされる場合、その作成者個人はもとより、その組織が罰せられます。
行政処分としては、その後、5年間は、許認可を失い又は申請が拒否される欠格事由になることもあります。
虚偽申請の疑いで企業が違反を調査される場合
虚偽申請においては受入停止などの行政処分と、刑罰を受ける刑事処分に分かれます。
いずれも残念ながら、処分や指導を受ける場面で、書類が事実と異なることがありそれが虚偽申請とされる場合、登録支援機関はメールなどで証拠を残していないため、会社が作成しておらず勝手に作成されたといっても、証明が難しいです。書類の内容が実体と異なることについて「無実であり登録支援機関が勝手にやった」ということを納得してもらうこともなかなかできません。
登録支援機関は、また受け入れ企業の身代わりとして処分されることもありません。入管は間接コントロールといわれる手法を採用しており、出入国管理においては、外国人を受け入れる団体がサポートする権限をもたせることで、それらの団体や学校に対する指導を通して、所属機関である企業や外国人に対する網羅的、効率的な監督や処分を実行することができます。
したがって、登録支援機関には通報義務があります。定期面談等において、入管法令や労働法令違反をみつけた登録支援機関は、それらを行政に通報しなければなりません。顧客を通報するという、やや実効性が乏しい制度になっております。
ただし、その通報をしていないという義務違反があれば、その登録支援機関に対する取締りを通して、彼らが抱える企業や外国人を処分しやすくなります。行政処分においては証拠収集が大変です。しかし、警察的機能について、登録支援機関などから供述させることができるからです。
当然ですが、登録支援機関が行った書類と整合しないなどの違反については、登録支援機関が企業の身代わりになることはできません。また、登録支援機関がコンプライアンス対応をできていない場合は、かえって入管から登録支援機関は目を付けられます。結果、捜査や指導がその先の企業や外国人にも及び、潔白であっても疑われる危険性や書類と実態が異なることの違反を問われるリスクが高まります。
もちろん企業が万全にコンプライアンス対応ができていれば安心です。しかし、専門家なくして、万全に義務や規制対応ができるほど、簡単な制度ではありません。非常に複雑です。
例えば、標準産業分類や業務区分の認識の誤り、あるいは財務の状況について、登録支援機関が故意またはそれに近い誤った申請をした場合でも、資格外活動違反と、企業はその共犯や不法就労助長罪が成立しうることになります。
行政処分の時効と、外国人やその家族への影響
以上、行政書士法違反を行う登録支援機関はそのまま罰せられ、支援が突如できなくなるリスクをはらみます。さらに、そのような登録支援機関が支援する外国人や企業は、不適切な書類や虚偽で許可をとっても、許可後の不法就労助長などを企業に引き起こすリスクを伴います。不適切な書類と実態の不整合はずっと続きますし、行政処分に時効はありません。その外国人の雇用をやめてもリスクは続きます。
それでいて、登録支援機関の許認可要件は緩いため、登録支援機関を取り消されても容易に取り直すことができ、困るのは企業と外国人です。
処分を受けてしまうことも気を付けなければなりません。
ひいては、海外から家族のために出稼ぎにきているような外国人をも路頭に迷わせることにもなります。我々日本人の状況に置き換えると、彼ら外国人にも、本国に幼い子供がいることも多くあります。
コンプライアンス対応としての行政書士への依頼
コンプライアンス意識が高い企業は行政書士や弁護士に依頼するので、登録支援機関に入管書類手続まで委託することはないと存じます。しかし、委託先の違反を気にしない企業も多くあります。
上記の通り、その場合は自社が不法就労助長などになってしまうことを覚悟することになります。
谷島行政書士法人では、上記のような状況の企業や登録支援機関であっても、是正や今後の適切な対応を手続として可能であり、さらにアドバイザリー顧問で継続的な対応も可能です。
お困りの方は是非お問い合わせください。
CATEGORY
この記事の監修者
-
谷島行政書士法人グループCEO・特定行政書士
・外国人ビザ専門。「手続代理」と、企業や弁護士等専門家向けに「外国人雇用の顧問」実績多数。
- 資格等
特定行政書士、宅建士、アメリカMBA・TOEIC、中国語(HSK2級)他
- 略歴等
・札幌生まれ、仙台育ち、18歳から東京の大学へ進学。
・自身が10代から15種ほどの職種を経験したことから、事業のコンサルと経営に興味を持ち、その近道と考え行政書士受験、独学合格(合格率2.6%)。
・行政書士・司法書士合同事務所を経験後、大和ハウス工業㈱に入社。「泥くさい地域密着営業」を経験。
・独立し業務歴15年以上、マサチューセッツ州立大学MBA課程修了、現在に至る。
- 取引先、業務対応実績一部
・企業:外国上場企業などグローバル企業、建設など現場系の外国人雇用企業
・外国人個人:漫画家、芸能人(アイドルグループ、ハリウッドセレブ)、一般企業勤務者他
最新の投稿
- 2024年12月26日高度専門職ビザ「高度専門職」の複合的な就労とその配偶者の就労ビザ「特定活動33号・34号」
- 2024年12月25日技術・人文知識・国際業務高度人材80点で永住許可申請時の注意点:「高度専門職」と「技術・人文知識・国際業務」からのメリット/デメリット
- 2024年12月25日在留資格一般資格外活動違反の要件と、在留資格の活動範囲が決まる入管法別表
- 2024年12月12日在留資格一般短期商用で就労ビザをとらずに日本出張をする外国人が不法就労となる基準