在留資格申請で行政書士が許可率を高める方法:「技人国」、「特定技能」から身分系ビザまで
2025年08月28日
行政法実務特定技能技術・人文知識・国際業務
在留資格申請で行政書士が許可率を高める方法:「技人国」、「特定技能」から身分系ビザまで

内容
プロの入管行政書士は法令を駆使し、さらに事例と運用を駆使する
3. 先例調査を経たプランニングで「許可ロジック」の援用と「不許可ロジック」の回避と克服
まとめ:入管申請は、裁量に対する先例を裁判のように立証する手続きです
プロの入管行政書士は法令を駆使し、さらに事例と運用を駆使する
行政書士として入管業務に携わる中で、私たちは二種類の申請に直面します。一つは、要件が明確で、それに沿って書類を整えれば許可が見通せる「制定法」的な申請。もう一つは、過去の違反歴、申請者の特殊な状況など、条文だけでは判断が難しいイレギュラーな要素を含む「判例法」的な申請です。
例えば、「特定技能」という在留資格において、許可される基準は大まかに以下の通りです。
1.在留資格該当性
各省令適合性:特定技能基準省令、分野別告示等
2.上陸基準省令適合性
3.在留資格認定証明書交付申請の場合、非虚偽性
4.在留資格認定証明書交付申請以外の場合、相当性
この場合、「特定技能」の要件で、「制定法」的な細かい基準は、1の内、特定技能基準省令や分野別告示において、定性的・定量的に示されております。
しかし、4は判例法的な代表例です。例えば、「相当性」には「在留不良でないこと」という基準があります。これは留学生が資格外活動許可範囲を超えてアルバイト時間超過があった場合なども含まれます。
そのようなときに、法令には「相当」という記載以外に、具体的に基準がありません。
すなわち事例と運用で入管が許可する事案かどうかの見通しをつける必要があります。
本稿では、判例法のように曖昧な基準に関して難解となる申請における許可率を戦略的に高めるための「コモンロー的アプローチ」について、実務的な観点から解説します。
なぜ「コモンロー的アプローチ」が有効なのか?
狭義で「コモンロー」とは「英米法」で採用されている判例法主義を意味します。すなわち法令で細かく制定法のように網羅しない入管法令へのアプローチという意味で、「コモンロー的アプローチ」としています。
ご承知の通り、入管法は法務大臣(およびその委任を受けた地方出入国在留管理局長)に広範な裁量を認めています。特に在留特別許可や、基準省令に完全には適合しない申請において、その裁量の範囲は非常に広くなります。
この「裁量」こそが、私たちが類似事例を分析するべき最大の理由です。審査官が裁量を行使する際、その判断の根底には、過去に許可・不許可とした無数の「事実上の先例」が存在します。これらは成文化されていませんが、入管庁の組織内で共有される判断の傾向、つまり「生きた判例」として機能しているのです。先例を重視されるのは「行政平等原則」が一つの根拠です。
- 制定法(入管法・省令):許可の「絶対的な要件」を定めたもの。
- 事実上の先例(類似の許可・不許可事例):裁量判断の「実質的基準」を示すもの。
したがって、条文をなぞるだけの申請書を作成するだけでは不十分です。私たちは、この「事実上の先例」をリサーチし、「本件は許可されたあの事例と類似性が高く、不許可事例とはここが決定的に違う」と審査官に提示する、立証活動が求められ、これは裁判に似ているものです。
実践的アプローチ:類似事例の分析と立証責任の遂行
ここでは身分系在留資格を例にします。具体的なアプローチは、以下の4つのステップに分かれます。
1. 事実関係の徹底的なヒアリングと論点の抽出
依頼者からのヒアリングでは、プラスの事実はもちろん、マイナスの事実(オーバーステイ、不法就労、離婚歴、収入の不安定さ等)を正確かつ詳細に聞き出すことが全ての起点です。このマイナス要素こそが、リサーチすべき「先例」のキーワードとなります。
2. 類似事例のリサーチとグルーピング
自社の過去案件、同業者とのネットワーク、公開されている許可事例不許可事例などを駆使し、抽出した論点に関する許可・不許可事例を収集します。
なお、谷島行政書士法人グループでは、1000以上の許可不許可事例をデータベース化しております。
- 許可事例の分析:
- どのようなマイナス要素があったか?
- それを凌駕する、どのようなプラス要素(人道上の配慮、日本社会への定着性、反省の情など)を主張・立証したか?
- どのような資料がその立証に寄与したか?(例:嘆願書、推薦状、ボランティア活動の証明書など)
- 不許可事例の分析:
- 不許可の核心的な理由(推定)は何か?
- 立証が不足していた点はどこか?
- 回避できた、あるいは反論できた可能性はなかったか?
3. 先例調査を経たプランニングで「許可ロジック」の援用と「不許可ロジック」の回避と克服
先例調査というリサーチ結果を基に「プランニング」という許可までの計画設計をします。
それに基づき「ディレクション」というプロセスで顧客に収集証拠を案内し、その後、どれだけ集まったか、その代替資料をどうするかを進めていき、最後に、立証資料に基づき申請理由書を作成します。
- 許可ロジックの適用:収集した許可事例の中から、本件との共通項が最も多いケースの論理構造を援用します。「先行事例において、このような状況でも人道的観点から許可が下りている。本件はそれに劣らず、あるいはそれ以上に斟酌すべき事情がある」という形で主張を展開します。
- 不許可ロジックの克服:想定される不許可理由(不許可事例から推測される懸念点)に対し、先回りして反論・釈明します。例えば、「過去の類似の不許可事例では〇〇という点が問題視されたようだが、本件では△△という客観的資料によってその懸念は払拭されている」と明確に記述し、審査官の疑問を事前に解消します。
これは就労資格であっても同様で、不許可となりやすい業務があれば、それをなくすことが出来ないか、あるいは別の業務を追加可能かを提案します。
4. 立証資料の戦略的添付
理由書で展開したロジックは、全て客観的な資料で裏付ける必要があります。入管庁のHPで必須書類リストに載っていないものであっても、主張を補強するために有効なものは積極的に添付します。例えば、地域のコミュニティとの繋がりを示す写真や感謝状、安定した生計を将来にわたって維持できることを示す事業計画書など、一つ一つの資料が「証拠」としての意味を持ちます。
5. 外国人や企業を大切に想う、行政書士に必要な倫理
ところで、就労資格で行うような職務変更提案は、実態から本当に可能か、必要かを企業などにご判断いただくものです。我々は書類で嘘を記載するような虚偽申請は絶対に行いません。虚偽申請をすると、実行者及び共犯者に刑罰もあり、また虚偽を隠し通していても行政処分に時効はありません。結果として、長年にわたりいつ取消しや更新不許可されるか不安定な状態になり、依頼者や会社も不幸にします。
それよりも正々堂々と許可をとれるように、大変であっても証拠収集やその説明文書作成、立証活動に尽力します。その大変さな仕事は、行政書士が代理代行できることも多いものです。
まとめ:入管申請は、裁量に対する先例を裁判のように立証する手続きです
難解な在留資格申請において、私たちは単なる書類作成の代行者ではありません。依頼者の書類作成の代理人として、「裁量」という名の法廷に立ちます。そこでは、過去の「先例」を武器に、審査官を納得させて許可を勝ち取ります。それは難解な事件で「裁判官の自由心証」の形成に挑み勝訴する弁護士に似ているかもしれません。
コモンローのアプローチ、すなわち類似事例の徹底的な分析と、それに基づく戦略的な主張・立証こそが、一見すると困難に見える申請の許可率を最大化する鍵となるのです。貴社のナレッジマネジメントの一助となれば幸いです。
これは通常、なかなか行わないことでもあるので、何日も使います。谷島行政書士法人グループにご依頼いただければ依頼者様は本業に集中し、我々が代理代行で解決させていただきます。
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この記事の監修者

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谷島行政書士法人グループCEO・特定行政書士
外国人雇用・ビザの専門家として手続代理と顧問アドバイザリーを提供。ビザ・許認可など法規制クリアの実績は延1万件以上。
- 講師実績
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行政書士会、建設やホテル人材等の企業、在留資格研究会等の団体、大手士業事務所、その他外国人の講義なら幅広く依頼を受ける。
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- 資格等
特定行政書士、宅建士、アメリカMBA・TOEIC、中国語(HSK2級)他
- 略歴等
・札幌生まれ、仙台育ち、18歳から東京の大学へ進学。
・自身が10代から15種ほどの職種を経験したことから、事業のコンサルと経営に興味を持ち、その近道と考え行政書士受験、独学合格(合格率2.6%)。
・行政書士・司法書士合同事務所を経験後、大和ハウス工業㈱に入社。「泥くさい地域密着営業」を経験。
・独立し業務歴15年以上、マサチューセッツ州立大学MBA課程修了、現在に至る。
- 取引先、業務対応実績一部
・企業:外国上場企業などグローバル企業、建設など現場系の外国人雇用企業
・外国人個人:漫画家、芸能人(アイドルグループ、ハリウッドセレブ)、一般企業勤務者他