経営・管理ビザで資本金3000万円が無い?J-KISS等新株予約権でクリア
2025年09月03日
経営・管理ビザ
経営・管理ビザで資本金3000万円が無い?J-KISS等新株予約権でクリア

2025年10月中旬より、経営・管理ビザの事業規模要件が大幅に引き上げられ、原則として資本金の額又は出資の総額が3,000万円以上となります。
内容
日本での起業を目指す外国人創業者にとって、在留資格「経営・管理」の取得は最初の大きなハードルです。特にこの資本金要件の引き上げは、スタートアップの資金調達戦略に大きな影響を与えるでしょう。
そこで注目されるのが、スタートアップの資金調達手法としてよく聞くようになったJ-KISS型新株予約権です。このJ-KISSによる払込金を、新しい「3,000万円」の資本金要件として入管庁に認めてもらうことは可能なのでしょうか?
本記事では、入管庁の公式見解(行政文書)に基づき、その明確な道筋を専門家として解説します。
【2025年10月改正】経営・管理ビザの新たな資本金要件
まず、基本となる経営・管理ビザの事業規模要件を確認しましょう。
改正後の上陸基準省令案では、事業規模が「資本金の額又は出資の総額が3,000万円以上であること」とされます。
まず、この要件をどうクリアするかが、ビザ取得の鍵となります。
J-KISS型投資とは?
J-KISSとは、迅速な資金調達を可能にする投資契約の仕組みです。企業価値の評価を先送りできるため、特にシード期のスタートアップに広く活用されています。
投資家から貸付のような(デットファイナンス)資金は、通常、会計上はまず「負債」として扱われ、(あるいは純資産の部の新株予約権)とされ、すぐには登記上の「資本金」にはなりません。この点が、入管法令に基づく経営・管理ビザの資本金要件を備えられないのかという論点となっていました。
J-KISS型による払込金は「出資の総額」として可能か
これまで解釈が分かれる部分もありましたが、入管庁が公開した行政文書により、J-KISSによる払込金を経営・管理ビザの資本金要件として計上するための要件が明確化されました。
結論として、J-KISSは以下の2つの条件を満たせば、その払込金が「出資の総額」の一部として認められます。
入管庁が示す2つの必須要件
- 返済義務のない払込金であること
- 発行された新株予約権の対価として払い込まれたお金であり、会社側に返済義務がないことが大前提です。J-KISSの契約は通常この要件を満たします。
- 将来的に資本金として計上することを確約していること
- これが最も重要なポイントです。払い込まれた資金について、「将来、新株予約権が権利行使された場合はもちろん、権利行使されずに失効した場合でも、その全額を資本金として計上する」という点を会社として確約し、書面で示す必要があります。
つまり、投資家から受け取った資金が、どのような未来をたどっても最終的に会社の資本(登記上の資本金または資本準備金)になることが約束されていれば、上陸基準省令の条文の基準適合について、審査上「資本金又は出資」と見なす、という考え方です。
重要なのは、「有償新株予約権の契約形態によってはJ-KISS以外も認められうる」ということです。J-KISSは例示であって、コールオプションのような性質である新株予約権は、権利行使の有無を問わず、資本金になることがポイントです。あるいは権利行使されない場合も「利益」になる契約であって、その後資本金になる確実性があれば、認められる可能性が十分あります。
5 有償新株予約権の発行により調達した資金について 上陸基準省令の「経営・管理」の項の第2号ロには、「資本金の額又は出資の総額が五百万円以上であること」とする基準が定められているところ、株式会社における払込済資本の額(資本金の額)又または合名会社、合資会社又は合同会社の出資の総額が500万円以上の事業である場合には、上陸基準省令の「事業の規模」に適合しているものと認められるところです。 この点について、新株予約権の発行による払込金の取扱いについては、以下の1・2両方を満たす部分の金額について、上陸基準省令「経営・管理」の項の第2号ロの「500万円」に計上することが可能です。 新株予約権の発行によって払い込こまれた、返済義務のない払込金であること 上記1の払込金について、将来、新株予約権が権利行使されることで払込資本となる場合及び権利行使されずに失効し利益となる場合のいずれであっても、資本金として計上することとしていること なお、上記に係る提出資料としては、以下の書類等が必要となります。 ⅰ 新株予約権の発行にあたり締結された投資契約書(J-KISS型新株予約権契約書など) ⅱ 上記ⅰの締結によって実際に払い込まれた額を証明する資料(通帳の写し若もしくは取引明細書の写し) ⅲ 上記ⅰの締結によって実際に払い込まれた額のうち、上陸基準省令「経営・管理」の項の第2号ロの「500万円」として計上して申請しようとする額について、将来、新株予約権が権利行使された際に資本金として計上することの誓約書等 |
出典:出入国在留管理庁「外国人経営者の在留資格基準の明確化について」、https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan43.html
申請に必要な提出資料
上記の要件を証明するため、申請時には以下の書類を提出する必要があります。
- ① 投資契約書(J-KISS型新株予約権契約書など)
- 投資家との間で正式に契約が締結されたことの証明です。
- ② 払込の事実を証明する資料(会社の通帳の写し等)
- 契約に基づき、実際に3,000万円以上の資金が会社の口座に入金されている客観的な証拠です。
- ③ 将来、資本金として計上することの誓約書
- 入金された資金のうち、ビザの資本金要件として申請する額について、「将来、新株予約権の権利行使の有無にかかわらず資本金として計上する」ことを代表者が誓約する書面です。これは申請の成否を分ける非常に重要な書類となります。
行政書士に依頼する時に決めるべき資本金計上方法
「経営・管理ビザ」を長年専門にしている行政書士であれば、資本金が足りない場合に、様々な選択肢を提案できるでしょう。そのうえで、在留審査の観点から、立証しやすい資料を提出でき、スムーズに進められるでしょう。例えば、以下のように様々な方法が考えられます。
1. J-KISSのような有償新株予約権を発行するのか
2. 外国人向け融資を受けるのか
3. 不動産を伴う事業なら、現物出資も可能か
4. その他の資金調達の適法なスキーム構築ができるか
5. その他、日本人や日本法人のパートナーと共に適法なスキーム構築ができるか
まとめ
入管法令改正により経営・管理ビザの資本金要件は3,000万円へと引き上げられますが、入管庁の見解が示されたことで、J-KISS型新株予約権で調達した資金を活用できる道筋が明確になりました。
- J-KISSによる払込金は、明確な要件を満たせばビザの資本金要件として認められる。
- 鍵となるのは「将来的に必ず資本金計上すること」を誓約書で示すこと。
- 申請には、投資契約書、入金証明、そしてこの誓約書の3点セットが不可欠。
要件は明確になりましたが、特に「誓約書」の作成など、専門的な知識が求められる部分も少なくありません。当法人では、スタートアップ企業のビザ申請に関する豊富な実績がございます。新しい制度下でJ-KISSを活用したビザ申請をご検討中の起業家の皆様は、ぜひお早めにご相談ください。
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この記事の監修者

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谷島行政書士法人グループCEO・特定行政書士
外国人雇用・ビザの専門家として手続代理と顧問アドバイザリーを提供。ビザ・許認可など法規制クリアの実績は延1万件以上。
- 講師実績
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行政書士会、建設やホテル人材等の企業、在留資格研究会等の団体、大手士業事務所、その他外国人の講義なら幅広く依頼を受ける。
- 対応サービス
- 資格等
特定行政書士、宅建士、アメリカMBA・TOEIC、中国語(HSK2級)他
- 略歴等
・札幌生まれ、仙台育ち、18歳から東京の大学へ進学。
・自身が10代から15種ほどの職種を経験したことから、事業のコンサルと経営に興味を持ち、その近道と考え行政書士受験、独学合格(合格率2.6%)。
・行政書士・司法書士合同事務所を経験後、大和ハウス工業㈱に入社。「泥くさい地域密着営業」を経験。
・独立し業務歴15年以上、マサチューセッツ州立大学MBA課程修了、現在に至る。
- 取引先、業務対応実績一部
・企業:外国上場企業などグローバル企業、建設など現場系の外国人雇用企業
・外国人個人:漫画家、芸能人(アイドルグループ、ハリウッドセレブ)、一般企業勤務者他