永住権取得の徹底解説シリーズその3(令和6年改正入管法対応)
2025年05月19日
永住
永住権取得の徹底解説シリーズその3(令和6年改正入管法対応)

永住申請(Step 3)における、独立生計や、収入に係る公的義務の国益要件(収入、納税、社会保険)
目次
収入に関する審査
納税に関する審査
社会保険に関する審査
まとめ:独立生計、収入面の公的義務履行の国益要件の重要性
永住許可要件のうちのひとつである独立生計要件は、永住申請において最も具体的な審査項目の一つであり、近年審査が厳格化されている分野です。企業ご担当者様が外国人従業員の申請をサポートされる上で、この要件に関する正確な理解は不可欠です。
この章では、収入、納税、社会保険の3つの側面から独立生計要件を詳しく解説します。
収入に関する審査
永住申請には安定した収入が求められます。審査では、主に以下の点が確認されます。
・過去の収入状況: 申請直近数年間(特に過去5年間が重視される傾向)の収入が審査対象となります。源泉徴収票や住民税の課税証明書・納税証明書などが提出書類となります。
・安定性: 収入の金額だけでなく、収入が安定しているかどうかも重要です。転職を繰り返している場合や、収入に大きな変動がある場合は、不安定と判断される可能性があります。
・扶養家族: 扶養している家族が多い場合、その人数に応じて求められる収入の目安が高くなります。これは、扶養家族を養うための経済力が必要とされるためです。
・特別控除: 納税証明書などで、不要親族に係る控除などが不当に多く計上されている場合、その実態について説明を求められたり、不利に判断されたりする可能性があります。特に、本国に家族がいるとして扶養控除を受けている場合、実際に送金しているかなどを確認されることがあります。税理士の指示で行った場合でも、申請者自身の責任が問われる可能性があるため注意が必要です。
収入の目安: 公的な基準はありませんが、一般的には年収300万円以上が必要とされてきました。しかし、近年の傾向としては、350万円、360万円以上の年収でも、扶養家族の数や他の状況によっては不許可になるケースが見られます。個別の状況によって判断は異なりますが、可能な限り高い収入水準であることが望ましいと言えます。
高度人材の特例を利用する場合も、年収はポイント計算の重要な要素となります。特に高年収であるほど、短い在留期間での永住申請が可能になります。
納税に関する審査
納税義務の履行は、素行善良要件および国益適合要件の両方に関わる非常に重要な審査項目です。以下の点が厳しく確認されます。
・所得税・住民税: 過去数年間の所得税・住民税について、定められた期限内に適切に申告・納付しているか確認されます。住民税の納税証明書などが提出書類となります。
・遅延・未納: 過去に納税の遅延や未納がある場合、原則として不許可となります。たとえ短期間や少額であっても、その事実だけで不許可となるケースが多々あります。
・特別徴収の場合: 会社が従業員の住民税を給与から天引きして納付する「特別徴収」の場合、納税義務者は従業員本人ではなく会社となります。もし会社の都合で納税が遅れた場合、形式的には従業員本人に帰責事由がないと主張できる可能性もありますが、入管の判断は厳しくなる傾向にあります。企業ご担当者様は、自社の外国人従業員の住民税が適切に納付されているか、改めて確認することが重要です。
・経営・管理の場合: 申請者が会社経営者の場合、会社の納税義務の履行状況も申請者本人の永住申請に影響します。経営者である以上、会社の納税不履行は申請者本人の帰責事由とみなされ、非常に不利になります。
対策: 過去に納税の遅延や未納がある場合は、まずは速やかに全額を納付し、その上で遅延の理由やその後の改善状況を詳細に説明する理由書を提出するなど、慎重な対応が必要です。軽微な遅延であっても、何の説明もなく申請すると不許可リスクが高まります。
社会保険に関する審査
公的年金および公的医療保険(健康保険)への加入・保険料納付も、納税と同様に素行善良要件および国益適合要件において非常に厳しく審査される項目です。
・加入状況: 法律で加入が義務付けられている期間、適切に公的年金制度(厚生年金または国民年金)および公的医療保険制度(健康保険または国民健康保険)に加入しているか確認されます。
・保険料納付状況: 加入期間中の保険料を、定められた期限内に適切に納付しているか確認されます。年金の加入・納付状況を示す書類(「ねんきん定期便」など)や、健康保険の保険料納付状況を示す書類などが提出書類となります。
・遅延・未納: 過去に保険料の遅延や未納がある場合、原則として不許可となります。納税と同様に、短期間や少額であっても不許可の要因となり得ます。転職などで一時的に社会保険の加入状況が変わった期間がある場合なども、未納期間が生じていないか慎重に確認が必要です。
対策: 過去に保険料の遅延や未納がある場合は、まずは速やかに全額を納付し、その上で遅延の理由やその後の改善状況を詳細に説明する理由書を提出するなど、慎重な対応が必要です。特に国民年金に加入していた期間がある方は、納付漏れが多い傾向にあるため注意が必要です。
まとめ:独立生計、収入面の公的義務履行の国益要件の重要性
独立生計及び公的義務履行に関する国益要件は、収入、納税、社会保険の3つの側面から総合的に審査されます。これらのいずれかに問題がある場合、永住許可を得ることは非常に困難になります。企業ご担当者様は、外国人従業員の方のこれらの状況を事前に確認し、問題がある場合は申請前に適切な対応を取るようアドバイスすることが重要です。特に、納税や社会保険の不履行については、たとえ本人が「知らなかった」「忘れていた」という場合でも、不許可の理由となるため、日頃からの適切な手続きの履行が不可欠です。
配偶者(日本人の配偶者等、永住者の配偶者等)の場合、法令上は独立生計要件が不要とされていますが、実際の運用では、夫婦全体の収入として一定程度の水準が求められます。特に、申請者自身に収入がない場合でも、配偶者の収入によって世帯として独立生計要件を満たす必要があります。世帯収入が低い場合や、非課税の期間がある場合は、独立生計要件または後述する国益適合要件の観点から不利になる可能性があります。
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この記事の監修者

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谷島行政書士法人グループCEO・特定行政書士
・外国人雇用・ビザの専門家として手続代理と顧問アドバイザリーを提供。ビザ・許認可など法規制クリアの実績は延1万件以上。
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行政書士会、建設やホテル人材等の企業、在留資格研究会等の団体、大手士業事務所、その他外国人の講義なら幅広く依頼を受ける。
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- 資格等
特定行政書士、宅建士、アメリカMBA・TOEIC、中国語(HSK2級)他
- 略歴等
・札幌生まれ、仙台育ち、18歳から東京の大学へ進学。
・自身が10代から15種ほどの職種を経験したことから、事業のコンサルと経営に興味を持ち、その近道と考え行政書士受験、独学合格(合格率2.6%)。
・行政書士・司法書士合同事務所を経験後、大和ハウス工業㈱に入社。「泥くさい地域密着営業」を経験。
・独立し業務歴15年以上、マサチューセッツ州立大学MBA課程修了、現在に至る。
- 取引先、業務対応実績一部
・企業:外国上場企業などグローバル企業、建設など現場系の外国人雇用企業
・外国人個人:漫画家、芸能人(アイドルグループ、ハリウッドセレブ)、一般企業勤務者他
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