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理由書作成技法:在留申請をする入管行政書士や企業必読

2025年06月20日

コンプライアンスサービス

理由書作成技法:在留申請をする入管行政書士や企業必読

この解説ページでは、外国人在留資格(ビザ)申請の際、その他あらゆる行政手続で重要となる書類作成の技法について、行政書士のほか、企業担当者の皆様にもご理解いただけるよう、谷島行政書士法人グループのセミナーの内容をまとめています。

内容

1. 理由書の構成テクニックにより在留審査が早くなる

2. 要証事実適合の明確化で審査も早くなる

3. 永住許可申請を例にした法的三段論法

4. 在留申請における、申請人が負う立証責任の原則

5. 理由書作成のベストプラクティス:要件適合のアピール

6. 実務における理由書作成手法

7. 応用:逆三段論法で、専門家同士、又は行政官に質問・相談

8. 結論

1. 理由書の構成テクニックにより在留審査が早くなる

迅速な審査のためには、いくつか覚えるべきテクニックがあります。それは「重要な要件適合」が「伝わりやすい」ことです。入国審査官との共通用語の共有ともいえます。

まず、何を言いたいかわかりにくく、無駄に枚数が多い書類は入管審査の長期化のほか、社内でも嫌がられます。

また、物語調は面白いものもありますが、就労系(ビザ)案件では求められません。ただし、相当性が法令要件として重要な事案や、身分系や在留特別許可で、人道的な理由が法令要件になるものもあります。そのような場面では物語調で感情移入させる方法がありますが、ここでは就労系をメインに論じております。

申請内容に要件に関しない不要な事実を入れてはいけません。あえて伝えないことが不正とされ罰せられることもありますが、要件に関しないことは通常違反となりません。

審査官は、案件をA,B,C,又はD案件として区分します。許可相当となるA案件となる、要件適合に不安がない(調査の必要性や量が少ない)案件が標準処理期間、あるいはそれより早くなるのは当然の帰結です。

逆に、伝えるべきことを伝えない場合や、誤解を招くと、「慎重審査」といわれる区分となり長期化します。

それらは法令要件を学ぶと同時に、文書作成技法を覚えることで回避可能です。

(アカデミックな文書作成技法の関連記事を参照する場合は以下)

⇒ 行政書士の書類作成技法:ESと「三段論法」の基礎と応用

2. 要証事実適合の明確化で審査も早くなる

迅速な対応が重視されるビジネスや、複雑化しやすい理由書等法令手続の文書では、結論から先に述べる構成が効果的です。Executive Summary (ES) の活用: 理由書などにおいても、ESの考え方を取り入れ、最初に申請の趣旨や要件への適合性といった重要な結論を提示します。これにより、審査官は膨大な案件の中で、その申請がわかりやすいか、許可の価値があるものかどうかを迅速に判断できます。また、要証事実という考え方をミックスさせると、早さと精度が両立されます。

Executive Summary (ES) 活用法

理由書などにおいても、ESの考え方を取り入れ、最初に申請の趣旨や要件への適合性といった重要な結論を提示します。これにより、審査官は膨大な案件の中で、その申請がわかりやすいか、許可の価値があるものかどうかを迅速に判断できます。

要証事実適合法

要証事実とは、たくさんの許可要件の内、適合する事実を証明する方法です。重要なのは、優先順位の高いものを中心に、要件適合の事実を示すことです。そもそも、要証事実とは、民事訴訟などにおいて、争点となる法令適用事実について必要となる概念です(主要事実とはその内、究極的・直接的な事実とされます)。

行政手続の理由書作成等でも応用すると「要件適合性」を網羅する方法ともいえます。

  • 要証事実の技法の場合、審査や仕事の結果の迅速化をしたいなら、「要証事実」の適合関係を冒頭に示す。または各段落の最初に示すべきです。

3. 永住許可申請を例にした法的三段論法

法的三段論法は、アカデミックですが、実務でもその法令適用や論理が誤っていないかわかりやすくなる技法です。自分の頭の中も整理されます。

これは入管法における在留資格申請などにも応用できます。例えば、「永住申請において、前科や前歴があると要件を満たさない」というガイドラインがある場合、具体的なスピード違反の事実(罰金でも前科となる)があれば、永住要件を満たしにくくなるという結論に至ります。

法的三段論法は、以下の3つのステップで構成されます。

  1. 大前提(法令解釈): 関連する法令や行政規則等(入管のガイドライン、審査要領、特定技能の運用要領など)を提示します。
    • 例:「スピード違反は罰則の対象となる」という法律がある。
  2. 小前提(具体的な事実): 当該事案における具体的な事実を記述します。
    • 例:「制限速度60kmの道路で100kmを出した。」
  3. 結論(当てはめ): 大前提と小前提を当てはめて導き出される結論を述べます。
    • 例:「この場合は罰則が適用される。」

永住許可申請など在留申請の例で法的三段論法は、以下の3つのステップとなります。

  1. 大前提(法令解釈): 関連する法令や行政規則等(入管のガイドライン、審査要領、特定技能の運用要領など)を提示します。
    • 例:「スピード違反は罰則の対象となる」という法律がある。
  2. 小前提(具体的な事実): 当該事案における具体的な事実を記述します。
    • 例:「制限速度60kmの道路で100kmを出した。」
  3. 結論(当てはめ): 大前提と小前提を当てはめて導き出される結論を述べます。
    • 例:「この場合は罰則が適用される。」

4. 在留申請における、申請人が負う立証責任の原則

入管をはじめとする全ての行政手続きにおいて、申請人が「要件適合」を立証する責任を負います。これは非常に重要な原則です。申請書類に不備があったり、曖昧な記述があったりしても、入管が親切に確認してくれるとは限りません。不許可になった場合でも、それは申請人側が立証責任を果たさなかった結果と見なされることがあります。

例えば、「企業内転勤」の申請であれば、在留希望期間に「無期限」や「永住」と記載しても、それが実際の要件と合致していなければ不許可になる可能性が高く、入管からの連絡は期待できません。プロフェッショナルな申請においては、申請側が、申請内容が要件にかかる事実であること(法令に当てはまる事実)を明確に立証する必要があります。

5. 理由書作成のベストプラクティス:要件適合のアピール

理由書では、単に事実を羅列するだけでなく、その事実が法令の要件に適合していることをアピールすることが重要です。

  • 事実認定と法的評価:
    • まず、提出資料などにより事実を明確に示し、それが事実認定されるようにします。例えば、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格申請で、専門的な業務であるかどうかが不明瞭な場合、業務内容の専門性を具体的に記述することで、入管がその事実を認定しやすくなります。
    • 次に、認定された事実が、入管の基準や法令解釈において認められるかを法的評価の視点から説明します。例えば、業務の7割が専門性のある業務であっても、残りの1〜2割が専門性がないと判断された場合、全体として専門性が認められるかどうかの評価が必要です。
  • 予備的主張(二重の安全策):
    • 万が一、一部の事実が要件に適合しないと判断された場合に備え、「予備的主張」を用意します。これは「二重の安全策」とも言えます。
    • 例えば、8割の業務しか専門性がないと評価されても、残りの2割についても、関連業務や付随業務、現場研修、総合職のロジックなどによって認められる規定や判例があることを提示します。これにより、多回事案における成功率を高めることができます。
    • 方針を組み立てる際には、この予備的主張まで含めた2段階、あるいは3段階の論法を構築することで、より盤石な申請書を作成できます。

6. 実務における理由書作成手法

当行政書士グループでは、以下の実務手法を推奨しています。

  • 趣旨の明確化: 申請書の冒頭に、申請の趣旨(何のためにこの理由書を作成しているか、要件に適合するため許可を求めること)を記述します。これは、上述のExecutive Summaryの考え方と同じで、審査官が申請の価値を判断しやすくなります。
  • 理論と解釈のミックス: 行政書士と行政機関の間では、実務に偏りが見られることがあります。そのため、理論(法令)と解釈を適切にミックスして伝えることが重要です。
    • Executive Summaryの箇所で「○○の要件について△△は○○に該当します」といった結論を宣言するような書き方も有効です。
  • 法的三段論法による各要件の網羅: 理由書の本文(ボディ)では、各要件について法的三段論法を用いて漏れなく(MECE)記述します。要件が複数ある場合は、それぞれの要件ごとにセクションを設け、明解に説明します。
    • 例えば、永住申請であれば、全ての要件(在留資格該当性、基準省令適合性など)が段落として分かれており、それに当てはまる事実が明確に記載されている必要があります。在留資格の変更や更新の場合は、「相当性」という要件の中で基準省令適合性を説明します。
  • 標準書式の活用: 当事務所では、誰もがゼロから構造を作る必要がないよう、標準書式を使用しています。これにより、セクションが明確に分かれ、すべての要件のチェックがしやすくなります。
  • 結論と根拠の明示: 各セクションの結論を示し、その根拠となる事実を記述します。当てはめが分かりにくい場合は、具体例や補足説明を加えることで、より分かりやすくします。
  • 提出資料との連動: 「これらの要件に適合する事実は、提出資料によって証明されます」と記載し、添付資料のリストと資料番号を連動させることで、審査官が容易に参照できるようにします。
  • 要件適合の言い換え(パラフレーズ): 結論や重要な要件適合については、パラフレーズ(言い換え)を効果的に使用します。これにより、異なる言葉で繰り返し理解を促し、主観的な解釈や誤解を防ぎ、ニュートラルな表現で要件適合をリードします。

7. 応用:逆三段論法で、専門家同士、又は行政官に質問・相談

  • ここで述べたアカデミックな文書作成手法は、行政への相談、質問や、報告書、メールの作成にも幅広く応用可能です。
  • 社内での話は、三段論法を逆にして、結論を先にするビジネス・リーガルのミックスも有効です。
  • 質問・相談の例:結論を最初に提示する
    • 社内での質問や顧客への相談においても、長々と経緯を説明するのではなく、結論を疑問形にして最初に提示することで、予測しやすく、誤解を減らすことができます。
    • 例:「○○の方法について、これで良いのでしょうか?」と最初に問いかけ、次に「なぜなら、△△という事実があるからです」と経緯や根拠を補足します。
    • 複雑な内容ほど、簡潔に三段論法で構成し、その結論を疑問形にして最初に提示することが、相手に意図を明確に伝え、スムーズなコミュニケーションを促します。

8. 結論

本解説でご紹介した法的三段論法や、セクションごとの要証事実適合解説技法等の考え方を活用し、常に「伝わる文書」を意識してください。申請人が立証責任を負うという原則を理解し、提出資料と連動させながら、説得力のある事実認定と法的評価を追求することが、スムーズな申請許可へと繋がります。

この記事の監修者

谷島亮士
谷島亮士
谷島行政書士法人グループCEO・特定行政書士
・外国人雇用・ビザの専門家として手続代理と顧問アドバイザリーを提供。ビザ・許認可など法規制クリアの実績は延1万件以上。
- 講師実績
行政書士会、建設やホテル人材等の企業、在留資格研究会等の団体、大手士業事務所、その他外国人の講義なら幅広く依頼を受ける。
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 - 資格等
特定行政書士、宅建士、アメリカMBA・TOEIC、中国語(HSK2級)他

- 略歴等
・札幌生まれ、仙台育ち、18歳から東京の大学へ進学。
・自身が10代から15種ほどの職種を経験したことから、事業のコンサルと経営に興味を持ち、その近道と考え行政書士受験、独学合格(合格率2.6%)。
・行政書士・司法書士合同事務所を経験後、大和ハウス工業㈱に入社。「泥くさい地域密着営業」を経験。
・独立し業務歴15年以上、マサチューセッツ州立大学MBA課程修了、現在に至る。

- 取引先、業務対応実績一部
・企業:外国上場企業などグローバル企業、建設など現場系の外国人雇用企業
・外国人個人:漫画家、芸能人(アイドルグループ、ハリウッドセレブ)、一般企業勤務者他
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