入管取次の資料は申請人に見せる?行政書士と外国人雇用企業の守秘義務運用
2026年02月27日
コンプライアンス
入管取次の資料は申請人に見せる?行政書士と外国人雇用企業の守秘義務運用
外国人雇用の在留申請では、企業の決算書や賃金台帳といった高度な機密情報を扱います。実務でよくある悩みが、申請人本人から「自分の申請なのだから、提出書類をすべて見せてほしい」と要求されるケースです。
安易な全開示は企業の営業秘密や他人の個人情報を漏洩させるリスクがありますが、一方で過度な秘匿も本人との信頼関係を損ないかねません。
本記事では、行政書士の守秘義務に基づき、「開示範囲の正しい線引き」とトラブルを防ぐ実務設計について具体的に解説します。
守秘義務・個人情報・営業機密を守る観点
在留資格の申請(認定・変更・更新)では、会社側(雇用主)が用意する資料(決算書、賃金台帳、雇用条件、組織図、取引先情報、社内規程など)と、申請人(外国人本人)が用意する資料(学歴・職歴、在留カード、納税資料など)が混在します。
このようなとき、行政書士又は外国人雇用企業、あるいはその関係者としても秘密漏洩をしないよう、どのようにトラブルを防ぐかがポイントです。
例えば、取次や行政書士とのやり取りとして、「申請人が“全部見せてほしい”と言う」「会社資料の開示を取次者に要求する」という場面があります。
結論から言うと、行政書士が“全部開示”に応じるべきかは、誰が依頼者(委任者)か、また資料の帰属と機密性、さらに本人情報か第三者情報かで整理して判断します。これは取次者全般に言えることです。自社であってももちろん、外部である登録支援機関も当然、すべて開示してよいわけではありません。
なお、守秘義務の刑罰は行政書士にしか適用されませんが、監理支援機関や登録支援機関など、また雇用企業の「取次者」全般にも秘密を守る義務や倫理はあるため、適用できる解説としてご理解の助けになるものと思料します。
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まず押さえるべき前提:行政書士の守秘義務は「依頼者の利益」を守るためにある
行政書士には法律上の守秘義務があり、業務上知り得た秘密を正当な理由なく第三者に漏らすことはできません。
ここで重要なのは、在留申請の実務では、依頼者(委任者)が企業であるケースが多いことです。
- 企業が依頼者:企業の提供資料・社内情報は原則として企業の管理下
- 外国人本人が依頼者:本人の提供資料・個人情報は本人の管理下
- 両者が関係者:ただし「関係者=全部開示してよい相手」にはなりません
つまり、企業が依頼者であるのに、企業の機密資料を本人に一括開示するのは、守秘義務・信義則の観点から問題になり得ます。
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「全部開示要求」にそのまま応じるのが危険な理由(実務上のリスク)
(1) 企業の営業秘密・競争上の不利益
決算書、取引先、粗利、見積、原価、内部ルールなどは、本人が悪意なくても外部に漏れるリスクがあります。
特に転職予定・労務トラブル中の局面では、会社にとって重大なダメージになり得ます。
(2) 第三者の個人情報が混入しやすい
賃金台帳、労働者名簿、健康診断、マイナンバー関連、社内連絡網などは、本人以外の従業員の情報が入ることがあります。
本人に見せた時点で、個人情報保護の観点でも事故になり得ます。
(3) 「申請のための利用目的」を超える
在留申請の資料は、目的が「在留資格の許可を得るため」です。
本人に“全部渡す”ことが、目的外利用(紛争資料化)につながると、受任者としての管理が崩れます。
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ただし「全面拒否」が常に正しいわけではない(開示すべき範囲がある)
一方で、本人からの合理的な確認や、本人が当然に知るべき事項まで隠すと、別の問題が起きます。
開示・説明が望ましい代表例
- 雇用契約書(本人の署名があるもの)・労働条件通知書
- 就業場所・職務内容・賃金・労働時間など本人の処遇に直結する事項
- 申請書に記載した内容(本人が説明できる必要がある範囲)
- 本人が提供した資料、本人に関する個人情報(本人が閲覧権限を持つ範囲)
要するに、「本人の権利・処遇に関わる情報」や「本人の提出資料」等は、説明・共有が必要になりやすい一方、会社の機密・第三者情報は、原則として丸ごと渡す必要はありません。
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実務の結論:行政書士は“依頼者の意思”と“情報の性質”で線引きし、原則は段階対応
当法人での一般的な整理(運用例)は、次のようになります。
A.原則:会社資料の“原本一式”を本人へ交付しない
- 企業が依頼者である場合、企業の機密資料は依頼者の管理下が原則
- 行政書士が一括開示を判断するのではなく、依頼者(企業)の指示に従うのが基本
B.例外:企業が「開示してよい」と明示した範囲は開示可能
- ただし、第三者情報が混入していないか等は専門職として確認
- 必要に応じて黒塗り(マスキング)・要約版で対応
C.紛争兆候がある場合は、即「窓口一本化+書面化」
- 「資料を全部よこせ」「会社が違法だ」等の兆候があれば
- 連絡窓口を会社担当者に一本化
- 開示可否は会社判断
- 行政書士は“申請目的の範囲”で説明・要約に限定
- 記録(メール・議事録)を残す
現場の混乱は、たいてい「最初に決めていない」ことから起きます。
企業が依頼者の場合、委任契約や運用ルールで次を定めるのがおすすめです。
- 資料の帰属(会社資料は会社管理)
- 申請人への開示方針(開示する範囲・しない範囲)
- 申請人への説明方法(要約・口頭説明・必要部分のみ共有)
- 本人情報の取り扱い(個人情報の同意、第三者情報はマスキング)
- 紛争時の対応(窓口一本化、開示は会社判断、記録化)
推奨運用
特に上場企業はインサイダーの懸念にもつながり、また大手企業や連携当事者が多い場合は特に注意です。
そうでなくても企業の事業や財務の定量的資料は、Googleドライブなどでも外部に共有不可能な機密フォルダで管理すべきです。さらに追加的に例えば以下の通りの運用です。
- 共有フォルダで原則「リンク共有禁止」「ダウンロード制限」「閲覧ログあり」
- こちらからのメール送付は原則避け、やむを得ない場合は暗号化+別経路でパスワード
- Ccのメールでは、事情を知っているCc当事者にそれまでの話は公開されているかどうかが重要。それが不明確なら、同一企業でない方や伝えることが不要である方へのCcは外す。
- 紙資料は「施錠部屋保管」「コピー制限」「廃棄は溶解/シュレッダー」
なお、「定性的な情報」は内容によっては秘密にならないこともありますが、センスと経験がないとそれも判断できません。
なお、職務基本規則でも、補助者等に秘密を保持させること、記録の保管・廃棄に留意することが求められています。(行政書士職務基本規則)
よくある注意点:企業資料は「申請人本人に渡してよいか」が揉めやすい
在留申請では、申請人本人が自分の申請内容を把握したい一方、企業は社外秘資料の開示を避けたい、という緊張関係が起きます。
このため、受任時点で次のどちらかに寄せておくのが実務的です。
- 企業依頼(法人案件)として受任:申請人本人への開示は原則しない(必要箇所のみ要約)
- 本人依頼(個人案件)として受任:企業資料を預かる場合は、企業の同意範囲を明確化(同意のない提供は避ける)
どちらでも、守秘義務(行政書士法12条)の観点からは、「目的外利用」や「不必要な共有」を避ける設計が安全です。
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「秘密」とは、依頼者が決めるもの?“依頼者の指定範囲”を最大限尊重しつつ客観的にも判断する
「『秘密』とは依頼者が決めるものか」という観点は、実務運用として重要です。
なぜなら、企業・本人が「これは社外秘」「本人にも伏せてほしい」と指定する情報を軽視すると、信頼関係が壊れるからです。
一方で、法文上は「秘密」を依頼者のラベルだけで機械的に決めるというより、
- 非公開であること
- 漏えいすれば権利利益を害しうること
- 本人(依頼者等)が秘匿の意思を持つことが通常であること
といった要素を含む“秘匿に値する情報”として広く捉える運用が安全です。
そのうえで、トラブルを避けるには、依頼時点で“秘密の線引き”を明文化するのが最も効果的です。
実務で必ず入れたい取り決め例
- 依頼者(企業)⇄ 申請人(外国人本人)間で、共有してよい情報/共有しない情報
- 社内の共有範囲(担当者、決裁者、現場責任者など)
- 外部(支援機関・紹介会社・弁護士・社労士等)へ共有する場合の同意手続
- 退職者・外注先を含む情報管理(アクセス権、持ち出し禁止、廃棄方法)
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「代表だけでなく行為者も対象」—“組織の仕組み”が必要
行政書士職務基本規則は、秘密保持を行政書士個人の注意義務で終わらせず、補助者・職員等に保持させること、さらに記録の保管・廃棄にまで注意義務を置いています。
したがって、法律解釈だけで、個別に判断するベテランの運用は、新入社員や経歴が浅い資格者に通用しません。2006年以降の行政書士試験は行政書士法がない、2020年代でもあまり知らない合格者が多数です。
もちろん、税理士資格者などの無試験組は、行政書士法をほぼ見たこともない人もいます。
結論、行政書士法の解釈があまりできない人でも安全に運用できる仕組みが必要となります。
最低限の事務所体制チェックリスト
- 役割ごとのアクセス制御(案件フォルダ・クラウド権限)
- 外注・業務委託の再委託禁止、NDA(秘密保持契約)
- 退職時の権限剥奪、端末回収、データ返却・削除の手順
- 誤送信対策(宛先自動チェック、BCCルール、添付自動暗号化等)
- 物理管理(施錠、来客導線、会議室の防音・画面覗き見対策)
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行政書士には「プロフェッショナルの倫理」が必要(“守秘義務=最低ライン”)
守秘義務は「やらないと罰せられる」最低限の規律であり、実務ではそれ以上に、説明責任・境界線管理・利益相反回避など、プロとしての倫理が信頼を決めます。
たとえば在留業務では、以下のような要望や状況があります。
- 企業が「本人に言わずに進めてほしい」と言う
- 本人が「会社に言わないでほしい」と言う
- 両者の利害が異なる(解雇・内定取消・転職など)
ここで必要なのは、感覚ではなく、受任時に合意したルールに沿って淡々と運用できる設計(法律家としてのマインドの徹底)です。
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よくある質問(Q&A)
Q1. 申請人が「自分の申請なのだから全部見る権利がある」と言います。
- “全部”が当然に認められるわけではありません。
申請には会社の機密資料や第三者情報が含まれるため、行政書士が一括で渡すのは、依頼者保護・守秘・個人情報の観点から慎重対応が必要です。本人に関係する部分は説明・共有しつつ、会社資料の原本交付は会社判断とするのが実務的です。
Q2. 会社が開示を拒否すると申請に不利になりますか?
- 入管への提出資料が揃っていれば、“本人に渡さないこと自体”が直ちに不利になるものではありません。
ただし、本人が面接等で説明できるように、申請内容の整合性(職務内容・雇用条件など)を本人が理解している状態にするのは重要です。
Q3. 行政書士が本人に開示してしまった場合、問題になりますか?
- 事情によりますが、企業依頼で機密資料を無断開示すると、守秘義務違反・信頼関係の破壊・損害賠償リスクになり得ます。特に第三者情報が混入していた場合は事故になりやすいので、開示は“会社の指示+必要最小限+マスキング”が安全です。
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この記事の監修者

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谷島行政書士法人グループCEO・特定行政書士
外国人雇用・ビザの専門家として手続代理と顧問アドバイザリーを提供。ビザ・許認可など法規制クリアの実績は延1万件以上。
- 講師実績
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行政書士会、建設やホテル人材等の企業、在留資格研究会等の団体、大手士業事務所、その他外国人の講義なら幅広く依頼を受ける。
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- 資格等
特定行政書士、宅建士、アメリカMBA・TOEIC、中国語(HSK2級)他
- 略歴等
・札幌生まれ、仙台育ち、18歳から東京の大学へ進学。
・自身が10代から15種ほどの職種を経験したことから、事業のコンサルと経営に興味を持ち、その近道と考え行政書士受験、独学合格(合格率2.6%)。
・行政書士・司法書士合同事務所を経験後、大和ハウス工業㈱に入社。「泥くさい地域密着営業」を経験。
・独立し業務歴15年以上、マサチューセッツ州立大学MBA課程修了、現在に至る。
- 取引先、業務対応実績一部
・企業:外国上場企業などグローバル企業、建設など現場系の外国人雇用企業
・外国人個人:漫画家、芸能人(アイドルグループ、ハリウッドセレブ)、一般企業勤務者他
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