ビザと役員報酬損金計上を両立させる決議の実務|「経営・管理」外国人役員変更リスク②
2026年07月01日
経営・管理ビザ会社設立、投資
ビザと役員報酬損金計上を両立させる決議の実務|「経営・管理」外国人役員変更リスク②
外国人社員を取締役、代表取締役、事業責任者などへ登用し、「技術・人文知識・国際業務」から「経営・管理」へ在留資格変更する場合、役員報酬の決め方には注意が必要です。
「経営・管理」の在留資格では、申請人がどのような地位で、どのような経営又は管理活動を行い、その対価としていくらの報酬を受けるのかが重要になります。
一方で、税務上、役員報酬は自由にいつでも増額・変更できるものではありません。役員給与については、法人税法上、一定の要件を満たさない場合、法人の損金に算入できないことがあります。
そのため、外国人役員の「経営・管理」変更では、次のようなジレンマが生じます。
・在留資格の審査では、役員報酬額を具体的に決めておきたい
・しかし、許可前に役員報酬を支給すると、資格外活動違反の問題が生じ得る
・反対に、許可後しばらく報酬を決めないと、税務上の定期同額給与の問題が生じ得る
・報酬が未定又は不自然に低額だと、「経営・管理」の在留資格該当性が弱くなる
谷島行政書士法人グループでは、この問題について、在留資格変更許可を条件とする停止条件付き株主総会決議、取締役会決議、役員就任予定決議、役員報酬決議等を組み合わせ、在留資格該当性と税務上の整合性を両立させる資料設計を行います。
なお、税務上の最終判断は税理士業務又は税務署の所管です。本ページでは、在留資格申請のプランニング(設計)に必要な付随として、一般的な税法上の考え方に触れます。
外国人役員登用で生じる「役員報酬」のジレンマ
「経営・管理」への在留資格変更では、申請人が単に会社の役員に就任するだけでは足りません。
重要なのは、実際に事業の経営又は管理に関する活動を行うことです。たとえば、事業方針の決定、資金計画、契約方針、人員配置、採用判断、許認可対応、部門管理、海外事業の統括など、経営又は管理に関する実質的な職務を担当する必要があります。
そして、その活動の対価として、合理的な役員報酬が定められていることも重要です。
ところが、在留資格変更許可前に役員報酬を支給してしまうと、現在の在留資格が「技術・人文知識・国際業務」である場合、資格外活動違反の問題が生じ得ます。
一方で、許可後に役員報酬を決めようとしても、税務上は、役員給与の損金算入ルールとの関係で問題が生じることがあります。
役員給与は「いつでも自由に損金算入できる」わけではない
法人税法上、役員給与は、一定の類型に該当しない場合、損金の額に算入できないとされています。
一般的に重要となるのは、次の3つです。
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類型 |
概要 |
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定期同額給与 |
1か月以下の一定期間ごとに、原則として同額で支給される役員給与 |
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事前確定届出給与 |
事前に支給時期・支給額を定め、一定の場合に税務署へ届出をした給与 |
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業績連動給与 |
一定の要件を満たす業績連動型の給与 |
中小企業や通常の外国人役員登用案件では、多くの場合、中心になるのは「定期同額給与」です。
定期同額給与とは、簡単にいえば、毎月同額で規則的に支給される役員報酬です。事業年度の途中で自由に増額したり、不規則に支給したりすると、損金算入が認められない部分が生じる可能性があります。
「就任後3か月以内」等のタイミングが入管法で問題になる理由
実務上、役員報酬について「就任後3か月以内」や「事業年度開始後3か月以内」という表現が使われることがあります。税理士いわく、本来は事業年度開始後の通常改定、役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更等があるときとされます。たとえば、次のようなケースでは注意が必要です。
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ケース |
問題点 |
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外国人を先に取締役に就任させ、無報酬にしておく |
後から報酬を開始した場合、税務上の整理が問題になり得る |
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許可後数か月経ってから役員報酬を決める |
定期同額給与として損金算入できるか確認が必要 |
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期中に大幅に役員報酬を増額する |
増額部分が損金不算入となる可能性がある |
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報酬額を未定のまま「経営・管理」を申請する |
在留資格該当性の立証が弱くなる |
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許可前から役員報酬を支給する |
資格外活動違反の疑義が生じ得る |
つまり、入管法上は「許可前に支給しにくい」、税務上は「遅れて決めにくい」という、相反した二つの問題が発生します。
在留資格該当性のためには、報酬を「予定」として具体化する必要がある
「経営・管理」の在留資格では、役員報酬は単なる添付資料ではありません。
報酬額は、申請人がどの程度の責任を負い、どのような経営又は管理活動を行うのかを示す重要な事情です。
報酬が未定であったり、不自然に低額であったりすると、次のような疑問が生じます。
・本当に経営又は管理活動を行うのか
・名目的な役員就任ではないか
・会社にその役員を置く必要性があるのか
・事業規模や職務内容に対して報酬が合理的か
・許可後に継続して活動できるのか
そのため、資格外活動違反を避けるために「許可後に考える」とするだけでは不十分です。
重要なのは、許可前には報酬を支給しないが、許可後に支給する報酬額は申請時点で具体的に決めておくことです。
停止条件付き総会決議による解決
このジレンマを解決する方法として、停止条件付き株主総会決議、停止条件付き取締役会決議、就任承諾、役員報酬決議等を組み合わせる方法があります。
これは、次のような考え方です。
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項目 |
設計 |
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役員就任 |
在留資格「経営・管理」への変更許可を条件として効力発生 |
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役員報酬 |
変更許可後の就任日以後、月額○万円を支給 |
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許可前の扱い |
役員報酬請求権は発生しない |
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在留資格申請上の効果 |
報酬額・地位・職務内容を予定として具体的に立証できる |
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税務上の効果 |
許可後の就任時から定期同額給与として整理しやすくなる |
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資格外活動上の効果 |
許可前の経営・管理活動及び役員報酬支給を避けられる |
この方法により、在留資格申請時点では、会社の意思決定として役員登用と報酬額を明確にしながら、実際の就任・報酬発生は在留資格変更許可後に制御することができます。
決議で明確にすべき事項
停止条件付き決議では、単に「許可されたら役員にする」と書くだけでは不十分です。最低でも次の事項を明確にする必要があります。
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決議事項 |
記載すべき内容 |
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条件 |
在留資格「経営・管理」への変更許可、又は認定など、個別事情に応じて記載 |
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就任日 |
条件成就日又は会社が定める効力発生日 |
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役職 |
取締役、代表取締役、事業責任者等 |
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報酬額 |
月額○万円 |
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支給開始日 |
〇月 |
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許可前の制限 |
報酬請求権を発生させず、経営・管理活動を行わない |
このように、就任時期、報酬発生時期、支給開始時期を明確にすることで、入管法上の活動時期と、税務上の報酬支給時期の整合性を取りやすくなります。
この設計により、「経営・管理」の在留資格該当性に必要な報酬額を明確にしながら、許可前に役員報酬を支給することによる資格外活動違反リスクを避けることができます。
理由書等説明の例
以下は、実務上のイメージです。実際の文言は、会社の機関設計、定款、株主構成、税理士の確認、司法書士の登記実務等に応じて連携し調整が必要です。
申請理由書での説明例
当社は、申請人を将来の取締役として登用する方針を決定しており、在留資格「経営・管理」への変更許可後、申請人は当社の経営又は管理に関する業務に従事します。
もっとも、変更許可前に申請人が経営・管理活動を開始し、又は役員報酬を受けることは、現在の在留資格との関係で疑義を生じさせる可能性があります。そのため、当社は、在留資格変更許可を停止条件として、取締役就任及び役員報酬の効力を発生させる決議を行いました。
これにより、変更許可前には資格外活動を行わせず、変更許可後には、役職、職務内容、報酬額が明確な状態で経営・管理活動を開始する予定です。
入管法専門行政書士法人の税理士連携例
行政書士法人がこの論点を説明する場合、税務上の判断をできません。一方、税理士は入管法などの行政法は対応できないため、入管専門の行政書士法人と連携し役員報酬の時期や額等を決定する必要があります。本件の中心は、在留資格申請における資料設計です。
このように、税務判断を税理士に委ねつつ、行政書士法人としては、在留資格該当性と資格外活動回避のための資料設計を行います。
避けるべき処理
外国人役員登用の場面では、例えば「まだ許可がないから報酬は後で考える」という処理は、入管上の立証を弱めることがあります。
反対に、「報酬を立証したいから先に支給する」という処理は、資格外活動違反の問題を生じさせることがあります。
谷島行政書士法人グループの実務上の考え方
谷島行政書士法人グループでは、「経営・管理」への変更申請において、単に役員登記の有無だけを見るのではなく、次の3点を重視します。
1.変更許可前に資格外活動違反を生じさせないこと
2.申請時点で「経営・管理」の在留資格該当性を具体的に立証すること
3.許可後の役員報酬支給について、税務上も説明しやすい時系列に整えること
そのため、案件によっては、許可前に実際の役員報酬を支給するのではなく、在留資格変更許可を条件として、役員就任・役員報酬・職務内容をあらかじめ決議します。
この方法により、申請時点では、経営・管理活動の予定、報酬額、会社の意思決定を明確にしながら、許可前には報酬請求権や経営・管理活動を発生させない設計が可能になります。
まとめ
外国人社員を「技術・人文知識・国際業務」から「経営・管理」へ変更し、役員へ登用する場合、役員報酬の設計は非常に重要です。
在留資格該当性のためには、役員報酬額を具体的に決めておく必要があります。
しかし、許可前に役員報酬を支給すると、資格外活動違反の問題が生じ得ます。
一方で、許可後に場当たり的に報酬を決めると、税務上の損金算入との関係で問題が生じることがあります。
そこで、停止条件付き株主総会決議、役員報酬決議、就任承諾書、職務分掌表、申請理由書を組み合わせることで、次の両立を図ることができます。
・在留資格変更許可前には、資格外活動違反を避ける
・申請時点では、役員報酬額と経営・管理活動の予定を明確に立証する
・許可後には、就任時から役員報酬を毎月同額で支給する設計を整える
・税務上も、後日説明しやすい決議・時系列を残す
外国人役員の「経営・管理」変更では、入管法、会社法、税務の時系列を一致させることが重要です。単に役員登記を先に行うのではなく、許可前・許可後の活動と報酬発生時期を明確に分けることが、実務上の重要なノウハウになります。
根拠条文・通達等の注記
出入国在留管理庁「経営・管理」提出資料・要旨
会社役員に就任する場合、役員報酬を定める定款又は役員報酬を決議した株主総会議事録等が、申請人の活動内容等を明らかにする資料として掲げられています。
出入国在留管理庁「外国人経営者の在留資格基準の明確化について」要旨
「経営・管理」では、役員に就任していることだけでは足りず、具体的な業務内容、事業規模、業務量、役員として支払われる報酬額等を踏まえて、経営又は管理活動に当たるかが判断されます。
法人税法第34条第1項・要旨
内国法人が役員に対して支給する給与のうち、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものの額は、各事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入しないとされています。
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(役員給与の損金不算入) 第三十四条 一 その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(次号イにおいて「定期給与」という。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(同号において「定期同額給与」という。) |
法人税法施行令第69条第1項第1号
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(定期同額給与の範囲等) 第六十九条 法第三十四条第一項第一号(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める給与は、次に掲げる給与とする。 一 法第三十四条第一項第一号に規定する定期給与(以下第六項までにおいて「定期給与」という。)で、次に掲げる改定(以下この号において「給与改定」という。)がされた場合における当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるもの イ 当該事業年度開始の日の属する会計期間(法第十三条第一項(事業年度の意義)に規定する会計期間をいう。以下この条において同じ。)開始の日から三月(次に掲げる法人にあつては、それぞれ次に定める月数)を経過する日(イにおいて「三月経過日等」という。)まで(定期給与の額の改定(継続して毎年所定の時期にされるものに限る。)が三月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合にあつては、当該改定の時期)にされた定期給与の額の改定 |
法人税基本通達9-2-12
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(定期同額給与の意義) 法第34条第1項第1号《定期同額給与》の「その支給時期が1月以下の一定の期間ごと」である給与とは、あらかじめ定められた支給基準(慣習によるものを含む。)に基づいて、毎日、毎週、毎月のように月以下の期間を単位として規則的に反復又は継続して支給されるものをいう |
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_03.htm
法人税基本通達9-2-12の3
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(職制上の地位の変更等) 令第69条第1項第1号ロ《定期同額給与の範囲等》に規定する「役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情」とは、例えば、定時株主総会後、次の定時株主総会までの間において社長が退任したことに伴い臨時株主総会の決議により副社長が社長に就任する場合や、合併に伴いその役員の職務の内容が大幅に変更される場合をいう。(平19年課法2-17「二十」により追加) (注) 役員の職制上の地位とは、定款等の規定又は総会若しくは取締役会の決議等により付与されたものをいう。
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臨時改定事由にいう「役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情」として、社長退任に伴い副社長が社長に就任する場合や、合併に伴い職務内容が大幅に変更される場合等が例示されています。
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この記事の監修者

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谷島行政書士法人グループCEO・特定行政書士
外国人雇用・ビザの専門家として手続代理と顧問アドバイザリーを提供。ビザ・許認可など法規制クリアの実績は延1万件以上。
- 講師実績
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行政書士会、建設やホテル人材等の企業、在留資格研究会等の団体、大手士業事務所、その他外国人の講義なら幅広く依頼を受ける。
- 対応サービス
- 資格等
特定行政書士、宅建士、米国MBA、中国語(HSK2級)他
- 略歴等
・札幌生まれ、仙台育ち、18歳から東京の大学へ進学。
・自身が10代から15種ほどの職種を経験したことから、事業のコンサルと経営に興味を持ち、その近道と考え行政書士受験、独学合格(合格率2.6%)。
・行政書士・司法書士合同事務所を経験後、大和ハウス工業㈱に入社。「泥くさい地域密着営業」を経験。
・独立し業務歴15年以上、マサチューセッツ州立大学MBA課程修了、現在に至る。
- 取引先、業務対応実績一部
・企業:外国上場企業などグローバル企業、建設など現場系の外国人雇用企業
・外国人個人:漫画家、芸能人(アイドルグループ、ハリウッドセレブ)、一般企業勤務者他




